世界陸上がたのしい。ホント陸上は楽しい。

シンクロとかフィギュアとか点数で決める競技も面白いしかっこいい。ただ、採点競技を見ていると、疑り深い小人物のぼくには、「こっちの子のほうが可愛い」とかいう審判の好みが影響しているように思えてしかたないのである。

それにひきかえ、陸上はどの競技も審判の主観が入り込む余地がない。ヨーイドン、パン、ガー、オッケー優勝、という流れで決まるものばかりで清々しい。室伏よりもハンガリーの丸っこい選手のほうが「男としては好き」だというちょっと奇特な趣味の審判がいたって不思議はないが、ハンマーがより遠くへ飛んだほうが勝ちという明白なルールがあるから、どうやっても室伏広治選手の優勝は揺るぎない。潔い。

だが、テレビを見ていてどうしても払拭できない疑問がある。織田裕二さんがなぜあれほど陸上好きなのか?という、97年以来抱きつづけている大命題を別として、

『なぜ短距離女子選手は腹を出すのか?』

という謎がいつまでたっても解けないのだ。言い換えれば、どっちが上下かはわからぬが、

『男女間の露出格差』

の理由がわからない。

女子は揃いも揃って、ウェアが上下別々のセパレーツで腹を出す。だが、男子は一部レスリングみたいな服を着ている選手をのぞいて、ほぼ全員シャツをズボンにインして腹は隠している。

なぜだ?

仮説として考えられるのは、

「腹を出したほうがより早く走れる」

というもの。だが、それが本当なら男も腹を出すはずである。だが今のところ、ヘソ出しルックの男子選手は見かけない。ボルトもブレークもちゃんとお腹はかくしている。

かつて競泳で、男子選手の海水パンツはひたすら縮小の一途を辿っていった。女子の水着が尖った鉛筆くらい鋭角なハイレグになる中、男子はハイレグにすると大変な事故が起きるので、一定の角度は守りつつも、どんどん面積が小さくなっていった。20世紀末の競泳男子なんて、8コース全員の海パンの面積を足しても1平方メートルもないんじゃないかというほどに小型化し、一部の熱狂的愛好家をのぞいて、見ていて恥ずかしいほどだった。結果、「ほぼ全裸に帽子着用」という凄まじい姿になっていた。それも一重に

「ハダカのほうが早い」

という前提があったからだ。ところが、鮫肌水着の開発以来、今度は男女問わずどんどん露出が減っている。

では陸上はどうなのか?

日本人女子選手として79年ぶりに100メートルの準決勝に進んだ福島千里選手も見事な腹筋を見せながら疾走していた。かっこいい。

で、男は、高平も斎藤ら日本人選手はじめ、みんな腹は出さない。子どもの頃からずっと腹巻きをしていたので、腹巻きを外すとすぐお腹をこわす、という乳酸菌ドーピングをしたほうがよさそうな男性を数名知っているが、陸上短距離選手が全員そうした『腹巻き依存』だとは考えにくい。

そもそも、女子選手のセパレーツをつきつめて考えると、あれはほとんどブラジャーとパンツである。

ブラとパンツで疾走。すごいぞ、それは。

浮気相手ともめて、こっそりホテルから逃げ出したモテモテサラリーマンの背後をブラとパンツだけ身につけた女性が100メートル11秒台でダッシュしてくるシーンを想像してほしい。円山町はたちまち大混乱だ。

結果、腹を出したほうが早いから女子は躊躇なくヘソ出しするけどビジュアル的に男のヘソは見たくないから出さない、という不文律があるとする仮説がにわかに説得力をおびてくる。とはいえあくまで仮説。だが、一つだけ確かなのは、

『中途半端に隠すと変』

という点である。男がヘソだけ出していると、逆に

『なぜ乳首だけ隠すのか?』

という疑問を抱かざるを得ない。着替えの最中にロッカールームを急に覗かれた場合、男が隠すのは上じゃない。下だけだ。上半身は出しても平気なのが男だから、結果ヘソだけ露出すれば非常に奇異にうつる。だからといって下半身だけ隠して上はハダカという男子選手もいない。アジア人が破れない10秒の壁を突破する近道は、そこにあるのかもしれない……ないか。