あまりに暑いと、いろんなことが鈍る。酒についてもそうである。

 真夏の酒は、あれが嫌なのだ。

 待ちに待った開店時間。好きな店の暖簾をくぐる。いつものように、なおかつ夏に旨いものがあれば注文し、冷たい酒を飲む。ここらへんまでは最高なのである。

 問題は最後の最後にある。

 店を出る時である。会計もすませ、ばったり会った知人(といっても名前も知らない)と挨拶をして「暑いですから無理なさらないで」なんて心優しい言葉をかけあったりした後。

 ガラガラ扉をあけると同時にだしぬけに熱気が体をつつみこむ。たちの悪い酔客に肩を叩かれ呼び止められるように、乱暴に熱気が立ちはだかる。

 あれが嫌で、夏場、酒量が少し減る。とくに日本酒が、大好きなのに、夏場はほかの酒にくらべてちょっとだけ飲む量が減る。こうも暑いとなおさらである。

 そういうことを、よく行く店の店主に話したら、「じゅうぶん飲んでますよ」と言われた。たしかにそこそこベロベロである。

 夏なのにそんなに飲んでしまったのは、店の近くで進学塾の夏期講習のポスターを見たせいだと思う。never give up and you will achieveなんて書いてあったのである。なんだか奮いたってしまった。かように応援は恐ろしい。うっかり頑張らせ、うっかり頑張ってしまう。帰りの電車で、想像が二年後の世界的運動会にまで広がったら、ぞわーっとして一気に酔いが覚めた。

 それゆえ、最寄駅からの帰り道、口直しにもう一杯やってしまった。今度は塾の応援ポスターは見なかったが、BGMの原マスミのおかげで、またかなり酔いがまわった。帰りに飲み屋のドアに肘をぶつけたが、あまり痛くなかった。痛覚が鈍ったのは、暑さでなく酒のせいである。