息子一歳半をつれて、近くの輸入食糧品屋へ行った。最近は「あっち」とか「ハイタッチ」なんて言葉もちらほら口にするようになっている。あいかわらず、私のことは「おかーさん」としか呼ばないが。
で、輸入雑貨屋の店内で、チーズやら酒やら物色していると、突然
「ちんちん、ちんちん」
 と連呼しだした。平日の16時。 店のなかには私と息子以外は女性ばかり。赤ちゃんだろうとなんだろうと、状況的にはセクハラである。
 注がれる白い眼差しは当然、保護者たる私への批判。
「なによ、あの父親……変な言葉教えこんじゃって、いやあね」
 違う、違うんです。
 たじろいだ私は、
「あはははは」
 などと笑って誤摩化したが、彼は気楽に「ちんちん、ちんちん」とつぶやきつづけた。
 私は手近にあったパスタの袋を振ってガサガサ音をたてて彼の言葉をノイズキャンセルすることもこころみたが、あまり奏功せず、結局一度店を出ることにした。

しかし、倅のために今言っておく。
彼はヘソのことを「ちんちん」と間違って覚えてしまったのである。あの店でも、自分のヘソを指差していたのだ。だから、あの日、K◯◯DI青葉台店にいた御夫人のみなさま、ゆるしてやってくださいませ。