先日、J-WAVEの『GOLD RUSH』という番組に呼んでいただき、コの字酒場についておしゃべりする機会を頂いた。ナビゲーターの渡部健さんは食べ歩きでも有名な方で、素人の私を文字通りスムーズにナビゲートしてくださり、こちらはひたすら楽しくコの字愛をダダ漏れさせていただきた。感謝の言葉が見つからない。ほんとうに楽しかった。

さてさて、あの番組で2曲選曲させていただた。一つはThe Pogues のミスティモーニング(Mysty morning by the Albert bridge)。もう一曲はShaun DaveyのThe Parting Glass。ポーグスは言わずもがな、ケルティック泥酔パンクの代表格なわけで、コの字酒場にあわないはずがない。ボーカルのシェーンみたいな人は立石のコの字酒場なんかでよく見かける。笑顔をたやさず、口元には殆ど歯がないみたいな。ラブリーな人達だ。そしてショーン・デイビーはアイルランドのコンポーザー/ミュージシャンでホットハウスフラワーズなんかともかかわりが深い。ホットハウスフラワーズといえばU2のボノが見いだした、全然U2っぽくないバンドである。こちらはアイルランドに古くからあるトラッドな詩にショーン・デイビーがメロディーをつけたもの。映画『Waking Ned Devine』のサントラにおさめられている(この映画がまたよろしい。裸のじいさんがバイクに跨がっている衝撃的なポスター同様、最高にパンチのきいた映画)。これは昔実家の自室で大音量で聴いていたら、それを聴きつけた私の亡父が「いいなあ、葬式はこれを流してくれ」と言ったので本当に彼が死んだ時にそうした。歌詞の内容も去り行く者が残される者に別れをつげ最後の乾杯をするものなので、まあぴったりなのである。さりとてメロディーはあくまで明るく、なおかつ染みる。友達と酒を飲むにはぴったりの曲で、私はいつもiPhoneにいれておいて時折流しながら呑む。

さて、拙著「コの字酒場はワンダーランド」でも書いたが、コの字酒場のBGM選びは難しい。しかし私はいつも勝手に心の中でBGMを流している。「勝手にコの字酒場DJ」である。これが実に楽しい。音楽は好き嫌いがあるし、「無音で呑みたい」という方もいる。ゆえに脳内プレーヤーでBGMを流すのである。

で、最近再訪した錦糸町の三四郎だったらなんて考え出したらとまらなくなる。三四郎は舟形のコの字酒場で白木が美しい。磨き粉んだすべすべのカウンターは人肌恋しい向きにはおすすめである。でBGMを選ぶとしたら、まずは

PretendersのDon't get me wrongである。私は女性ロックスターにすぐ惚れてしまうのだが、Pretendersのクリッシー・ハインドだけはなぜか惚れなかった。でもそんな彼女がDon't get me wrongと切々と歌うのである。「誤解してほしくないんだけどさ」みたいなもんであろう。ごめん、クリッシー、私が誤解してたよ。で、すべすべの三四郎の白木カウンターをなでるのである。昇天である。

そしてもう一曲選ぶなら、The La'sのThere She Goes。三四郎の女将さんは岩手出身の美人である。着物姿も凛とした女将さんが舳先のようなコの字カウンターの中を行ったり来たりする光景は、人形浄瑠璃を見ているみたいに可愛くて奇麗だ。というわけでThere She Goesなわけである。見ているだけでうっとり。鼓動も高鳴り、もう一合頂くことになる。

そして三曲目、あまりに楽しくてついつい長居してしまいがちな三四郎。ほんとうはさらっと来てさらっと呑んで去っていきたい。できればテンポよく。そして明日への活力を漲らせ店を出る……となったら、これはもうBilly Bragg のWaiting for the Great Leap Forewardである。政治的意図はともかく、これほど働くぞ、戦うぞという気持ちをさらさらとかきたてる曲はない。後半のコーラス部分でお勘定をすませ振り返らずに手だけ振って店を後にする。今度来る時はもう少し成長してくるよ、女将さん、大将!