信号待ちで脇を見たら、家をたてていて若者が作業している。いなせ、というより、若干都会のエキスをエグザイルから抜いたような雰囲気でなかなか凄みがある。足場の上にはピンク色のニッカポッカに金髪の鳶の人。すぐ真下に真っ黒のニッカポッカに短髪口ひげの人。息のあう作業。小気味良い。

だが、一つ気になることが。

あのズボン、すなわちニッカポッカである。

最近は大リーグの選手がアンダーストッキングをかくしてベロンとズボンを足首までかくしてはくようになった影響なのか(イチローみたいな古い着こなしのほうが断然好き)、若い職人達のニッカボッカはみな地下足袋の足首をかくすタイプのものがほとんどだ。作業の上では、どう考えても足首の回りがダボダボしているのは邪魔でしかたないはずだが、業界のファッションスタンダードがそれをゆるさないらしい。皆、オランダ漫才のズボンというか、魚肉ソーセージの先っぽみたいな感じの着こなしをしている。

で、あのニッカポッカの中ってどうなっているのか?

おそらくは生足ではいているのだろう。ベルトで腰をしめ、足首できゅっとしまっているということは、あのズボンの中に大量の空気がこもることになる。密閉まではいかなくとも、足首回りも腰も作業のために結構締めているようだから、空気は逃さない。

そして一つの問題にぶちあたる。

高所での作業の場合、その場をちょいちょい移動することは困難だ。したがって、ある程度のジャンルに該当する行為は高所で済ますことになる。まあ、おおまかにいって御不浄以外は高いところで済ますことができる。

しかし自然はすごい。これからの季節、高いところは風も強く冷える。お腹が冷える。そして、腹に至極自然にたまるものがある。

ガスだ。化学的にはメタンとか、和風に言えば屁とか、である。

鳶職はやっぱり高いところでひょいひょいと動くのが真骨頂だとお見受けする。おそらくはランクが上の方が上にいき、修行の年月によって順番に持ち場は下にさがっていくのだと推測される。

たまに先輩の真下に後輩とおぼしき人がいる光景にでくわす。それが今ぼくの真横にひろがる光景だ。

ここで問題だ。

体内にたまった件の気体を放出する際、おそらくは持ち場をいちいち離れることはないだろう。したがって、足場の上でちょいっとかプスリとリリースすることになる。

問題はニッカポッカだ。昔のニッカポッカなら膝下できゅっとしばられていたから、中にあるガスが飛び出すにしても膝をまげたりしたときに、スウッと大気中に放出されていたと思われる。高所の風がたちまちガスを大気と渾然一体化させるから安心だった。霞ヶ関ビルの現場ではおそらくそのようにガスは始末されていたはずだ。

だが、今のニッカポッカは違う。足首ぎりぎりまでたれさがっている。で、

「先輩、まじスパナっす」

なんて言いながら後輩が真下に来た場合、おこりうる悲劇は想像にかたくない。足首回りの僅かなすきまから疾風となって放出されるガスをまともに鼻に喰らう後輩達。早く流行が変わってくれることを祈るばかりだ。