昼下がり。拙宅のベランダ前の芝生のあたりでゴソゴソ音がするので何かと思ったら小さな影が植え込みのあたりで蠢いている。アナグマ?に、しては大きいが、イギリスでもないんだからハリネズミもいないはず…ああ、わかった。

そのシルエットは間違いなくウォンバットである。

庭先に野良ウォンバット。

「もはや日本の気候は熱帯」だとか、「携帯電話はガラパゴスだ」とか近頃よく耳にしていたが、こればかりは気づかなかった。不覚。かくして「日本はオセアニア」になっていたらしい。

…わけがない。

よくよく見れば、それはほっかむりして草むしりしているウォンバットっぽいおばさまなのであった。要するに体全体の輪郭線がソフトでまるっこい。ぷちセザンヌ?
とまれ結構な年齢の女性なのだが、ぼくは問いたい。なぜ炎天下にやるのだ?熱中症で死人が出ているというのに、まさかの暴挙である。

だが、こういうときぼくは何を言えばいいのかわからない。

暑いから危ないですよ、というのも妙な言い方ではないか。彼女は百も承知でやっている、人生の先輩にしたらいらぬお世話だ。だいたい剪定ばさみを持った老婆が暴走老人と化した時、ぼくにはなすすべがない。

ならば、いきなりレースクイーンみたいに日傘をさしかけてあげるか?ハイレグ着るか?

いやいや、宮沢賢治じゃないんだから。こっちが倒れる。東ニ病気ノ人アレバ行ッテ添イ寝シテアゲル、ぐらいしかぼくにはできぬ。即ち役立たず。

というわけで、とりあえず、時々観察することにした。もしも少しでも異常があれば駆けつけようというわけだ。で、カーテンをそっと時折開けてウォンバットおばさんを見つめているぼく。逆に通報されそうで些か心配な午後だ。