いまだいつかモテ期が来るだろうと思いながらあと10日程で不惑を迎えるオレ。夢をあきらめないナイスミドルとして生きていこうと考えているが、先日、リアルモテな男子と奇妙な偶然を共有した――。


 友人のギタリストFちゃんのご子息がラブレターをもらったと聞いた。Fちゃんのご子息はFちゃんのグレートなフェイスのDNAをそのまま受け継いだキュートフェイスな小学生である。ラブレターをもらうのもうなずける。キティちゃんの便箋とか、あるいは男の子ことを慮ってポケモンとかの便箋なんだろうとぼくは予測していたが、Fちゃんの口から出たのは、

「丸めたティッシュ」

 というおよそ凡百のラブレターの概念をぶっとばす凄まじいインパクトを持つ代物であった。しかも丸めたティッシュに

「鉛筆で薄く「◯◯くん 好き」って書いてあった」

 というのである。すさまじい。

 小学校低学年だっていうのに、おそろしくエロさがある。陰影礼賛小学生編である。そのへんにあった紙に我慢できずに鉛筆で書いてしまい、黙って丸めてわたすなんて、傍らにニーチェがいたら噛み付いて山羊みたいにモグモグ食ってしまったはずだ。

 それでオレも思い出したのだが、5年生の時、サイン帳という、まあクラスメート各人に思い思いのことを書いてもらうようなノートがはやった。一時、一晩に3冊くらい渡され辛いこともあった。思えばあのころから締め切りに苦しめられていた。で、ぼくもご他聞にもれず、1冊のノートを巡回させていたのだが、ある女子に書いてもらった後、しきりに

「読んだ?」

 と尋ねられたのである。「読んだよ」と言ってるのに何度も聞かれる。プレッシャーでそのうちその子から逃げるようにしていたのだが、学年が変わってサイン帳を見直して愕然とした。その子のページの片隅、というかページの四方に「好き」と書かれていたのである。これが、滅茶苦茶薄い文字で老眼が出てきた今のぼくには天眼鏡無しには見えないくらいの薄さ。しかも四隅…。もはや愛ではなく呪いにちかい感じがして、ぼくはこれは急がなくては、と思い、別のクラスになった彼女に翌日になって

「読んだ」

 と唐突に伝えたところ、彼女はぽかんとしていた。どうやら、もはや気持ちは別の男子に移っていたらしい――そんなことをFちゃんのご子息の話しを聞いて思い出した。坊や、薄い文字はあなどれないぜ。