「鼻から」

とくると、「牛乳」と合唱するのが小学生の定番だが、人はすこしずついろんなことを学んで、「鼻から」いろんなことが出来ることを知る。やってはまずいが皆鼻がいろんなものの出入り口になっていることを知っている。

 

友人のギタリストFちゃんが、先日突然の発熱で卒倒寸前の状態に陥り、あわてて病院にいったところ

「こりゃあインフルエンザだね」

とあっさり診断された。タミフルとリレンザは、まああえて大相撲で言うなら「輪島と北の海」みたいなものだが、実は「三重ノ海」もいた。イナビルである。

これはリレンザみたいな「吸入型」の新薬で日本ではじめて開発されたんだそうだ。えらいぞ、第一三共。

朦朧とした意識の中、医師の説明をきいていたFちゃんはこくりこくりと頷いていたのだが、一つだけ気になることがあった。

「何かわからないことはありますか?」

医師が言うとFちゃんは思わず、

 

「それって鼻からやるんですよね?」

 

診察室は静まり返り、看護士さんや医師の目は一斉にFちゃんに注がれた。一瞬、Fちゃんは熱が下がったような気がしたというが、それはお医者さん達の

 

「薬違いだよ」

 

という暗黙のつっこみに、一気に血の気がひいたせいだけであった。ちなみに、イナビルは劇的に効果を現し、48時間後にはFちゃんはぴんぴん元気になった。

もちろんFちゃんは完璧にクリーンな人であって、セブ島にとんずらするようなことはない。昨日もヴァイオリニストのWくんと一緒に健康的に泥酔した。もちろん鼻から飲んではいない。