うんと若いときは、拾得という坊さんはかっこいいなあ、と思っていた。李白もまた憧れの人であった。どちらも、今の東京にいたら、何度逮捕されているかわからないような危ない人達である。

忙しいやらなにやらで曜日も日付もすっかりわからなくなっていた。風邪が残って咳がひどい。集中力がいまひとつ高まらず、原稿が進まない。
気分転換しようと、よく行く飲み屋さんのK太郎さんに、面白いからぜひ一見と言われていたMXテレビの『5時に夢中』という番組をつけた。そうしたら、以前、勤めていた会社の先輩にあたる人がコメンテーターで出演していた。

岩井志麻子さんとペアでよく見かける。
ピンクレディーか、あみん か、ウィンクか、どれかにたとえるなら…
話はピンクどころではないし、ウィンクのようなアンドロイドどころか情念たっぷり。
まあ、あえて『あみん』か。だが決して『待たない、むしろどこまでも追っかけてくる』という感じである。司会の逸見ジュニアは、お札を3枚隠し持っているのではあるまいか。

おれがサラリーマン編集者だった頃、その人は、髪型が「おさげ」なことで有名だったが、今日はとても普通のセミロングで、昔日の面影はあるものの、時は流れるなあ、と思わず感慨にふける。そうしたらはたと思い出した。いやはや、驚いたことに自分の誕生日であった。光陰矢の如し。一寸の光陰、軽んじてばかりである。

十代の頃は、はたして自分の30代後半なんて夢にも思わなかったが、なってみると全然意識が変わっておらず、おそろしい無自覚ぶりである。変わったのは目方と鼻毛が白くなったくらい。あとは、ほんとうに変化がない。

しかし、自覚がないのは本人だけである。いましがた、サイトで「治験のおしらせ」というのを発見。3泊4日で15万円。新薬の実験台のバイトである。気になって詳細を見たら、年齢35歳以下までなんだそうで、おれはアウトなのであった。知らぬ間に、若い人のお世話になる側になってしまった。しまった。

寒山とか元祖「裸で何が悪い」の南方熊楠だとか、とっぴながら優れた人には、すげえなあと憧憬の念を持って見るけれど、まあ、そういう生き方は、ちょいと無理なことぐらいは流石にわかってきた。これも年の功。馬齢を重ねるとはよく言ったものだが、まあ、犬馬は死ぬまでちゃんと役に立つ。桜鍋なんて大好き。

とまれ、いかによき犬馬たれるか、そこらがこれから肝要だろう、なんて殊勝なことを思うのは、やっぱり年のせいじゃなく風邪のせいだと思う。