ジャイアントパンダが白黒なのは、一頭でも二頭に見えるからなんだそうだ。あくまで一説だそうだが、ああいうコンビカラーというのは、正確な頭数の把握が難しい。サバンナのシマウマなんて、何頭いるのかさっぱりわからない。

まあ、どっちみち、野生動物だったら、おれは何も認識できない。視力は両眼ともに0.01とかなので、裸眼ではチンプンカンプンである。眼鏡なしで鏡を見ると、ほとんどのっぺらぼうである。まあ、眼鏡をかけても、おれの顔は、ほとんどのっぺらぼうである。さびしい(かおなし)。

明け方ゴミを棄てにいった。
我が家は一階なので、それほど億劫でもない。しかも手順もみんなおぼえているので、眼鏡なし、眼をつぶってでもやれる(それは無理)。寝る前にまともに朝日を見ると眼が冴えるていけないので、裸眼で、ぼんやりした世界の中ゴミ出しに出た。

一番乗りだろうと思ったら、もう白い袋2つある。夜中に出しちゃった人がいるのかしらん?負けた。見知らぬ先客の後塵を拝したのを、いささか後悔しつつ、ポイッと袋をおいた。これで寝られる。おつかれさん。

刹那…。

「おはようございます」

ゴミが喋った。

ええええええ。のけぞったおれのサンダルが片方ぬげた。さながら焼け出された人。茫然自失。

妖怪?
袋の中にエスパー伊藤みたいな人?

さらに恐ろしいことに、ゴミは、もぞもぞっと動くと、すっくと立ちあがった。

正体は、ジャージを着た、おばさんであった。
眼鏡をかけてないので、顔は全然見えない。されど、心の目は開いている(南斗白鷺拳シュウ)。
件のゴミは善意の人で、早朝からゴミ置き場周辺を掃除していたのであった。白い、シャカシャカと音がするジャージ。お願いなので、そんなところにこっそり蹲らないでほしい。収集車の人が誤って回収してしまいます。
ゴミ否白ジャージは一息つき会釈。傍らに置いてあった、帚を取り出し、あたりを掃き出した。レレレのレ。おそらく、いい人である。

家に戻ってから気になったので、ゴミ収集所をのぞいてみた。
ちゃんと眼鏡をかけて…誰か気になるじゃない、ゴミおばさん。

もう一人いた。
帚のおばさんの脇で、草むしりしているおばさんが、やっぱい白いジャージ姿。
帚のおばさんは、 おれの出したゴミ袋をつついていた。

おれの袋に不審物がないことを確認して安心したのか、帚の白ジャージは、またしゃがんだ。やっぱりゴミ袋にしか見えなかった。