家に置いてある鉢植えの勢いがない。
触れると、ぱらりと葉が落ちるようになってきた。


写真家の星野道夫が書いた「旅をする木」。アラスカを拠点に写真を取り続け、カムチャッカで不慮の事故により亡くなったカメラマンのエッセー集だ。
これをさっき読み終えたところ。
池沢夏樹が寄せた文庫の解説(これが、いい。ぼくがいつか死んだら、こういうことをぼくの本に書いてもらえたらと思うよ)が言うように、カメラマンが過ごしたすばらしい時間。ただそれだけを書いた本である。
表題作は、トウヒという木の種が、周り回って育っていくエピソードだけれど、こういうものを読んでいると、ロハスなんて言葉が、なんだかただ金儲けの道具に思えてきてしまう。
照れ隠しというか、飲み屋なんかで、脈絡にもよるけれど、「ぼくは俗物」なんてよく言ってきた。
でも、この本を読んだら、生き物はとりあえずすべからく俗物で、だからこそ誇りを胸にできるように、がんばったりするのかなあ、なんて思ったりして。
禅寺で一週間体験修行みたいなことをやって家に帰り、それまで掃除機も触ったことのない人が朝から雑巾がけしてしまう、みたいな心境。いや、禅寺の修行みたいな辛さはみじんもないんだけどね、この本は。


例の鉢植えを実家の庭に植え直そうと考えている。
風呂にも入らないで野営なんて、ぼくはあんまり好きじゃないけど、かっこいいなと思う人がいて、「その人だったらこうするかな」なんて思ってやる。つまりは真似だけど、いいものを真似るのはわりといいことだと思うのよ。